2016年4月24日 衆議院北海道5区補選の結果考察
4/24に行われた衆議院北海道5区の補選は自民党の和田義明氏が当選しました。
たいてい補選というのはあまり注目度が高くならず投票率が低下する傾向になります。ところが今回の補選の投票率は57.6%(前回比-0.8ポイント)と通常の選挙なみでした。
内容が違うため単純比較はできませんが、同日に行われた京都3区の投票率が30.1%(前回比-19.1ポイントで過去最低)であったことからも、北海道5区の補選が通常の選挙と変わらない選挙であったことがわかります。
マスコミ報道も含め戦前からこの補選の注目度が高かった理由はいくつかあります。
今回のポイントを挙げてみましょう。
1. 2014年12月の総選挙から約一年半ぶり、2015年の安保関連法案が成立以降初めての国政選挙である
2. 2016年夏の参院選へむけた反自公の統一候補擁立の動きをうけ、自公vs反自公の一騎打ちになった
3. 維新が分裂し、その一部と民主が合併して民進党が誕生した
4. 新党大地が旧民主などの野党系から自公・与党系に路線を変えた
5. 町村氏の弔い合戦(娘婿である和田義明氏への禅譲)
■自公vs反自公の一騎打ちで大接戦の戦前予測
2014年12月の結果をみてください。
第47回衆議院議員総選挙 北海道第5区
町村信孝(自) 131,394票 50.9% 公推薦
勝部賢志(民) 94,975票 36.8%
鈴木龍次(共) 31,523票 12.2%
この結果からわかるとおり、民主・勝部氏と共産・鈴木氏の得票合計数は町村氏と互角に戦えるものです。過去には2009年の民主政権交代選挙では、共産党が候補者擁立を見送ったことで事実上の一騎打ちになり、世の中全体の大きな流れもあって町村氏は落選しています。
第45回衆議院議員総選挙 北海道第5区
小林千代美(民)182,952票 53.8%
町村信孝(自) 151,448票 44.6%
畑野泰紀(幸) 5,380票 1.6%
今回の補選は町村氏の死去に伴うものでした。町村氏の娘婿である和田義明氏は後継者として弔い合戦に補選に挑むことになり、言い方はあまりよくないかもしれませんが禅譲選挙としては最もよい条件です。前回と同じ条件(共産党が独自候補者を擁立)ならほぼ安泰です。しかし一騎打ちになったことで、俄然厳しい戦いになりました。
北海道第5区(wiki)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E7%AC%AC5%E5%8C%BA
■反自公統一への期待
反自公統一候補となった池田真紀氏は、もともと旧民主党の道連常任幹事をやっていた人物で、補選も民進(旧民主)として挑む予定でした。しかし共産党が独自候補擁立を見送る交換条件として、党の看板を下ろし無所属で戦うことを要求したために無所属を名乗りました。
この共産党の要求(党の姿勢)について私自身はかなり疑問がありますが、選挙戦ではプラスに働いたと思います。
・順風満帆どころか幽霊船との評価を受けた?民進党の看板はマイナス
・無党派層の票を集めるには無所属がいい
・若い、女性、党の色がない(ように見える)は、反自公の風を取り込むための重要な見た目要素。
これによって反自公候補者が当選するための最高の条件を池田氏は揃えることができました。しかし言い換えると、この条件で勝てなければもう上積みはないということです。
■何も起こらず、何も影響しなかった
町村氏の弔い選挙、共産党を含めた統一候補による一騎打ち、反安保関連法案、民進党船出、新党大地の路線がえ・・・・
最近の政治の中身の問題はさておき、この北海道5区の補選は多くの要素が凝縮されており、それが結果にどう影響するかという点で私も注目していました。
結果はご存じの通り自民和田氏が12000票余りの差で当選します。
和田義明(自)135,842票 52.38% 公明党、日本のこころを大切にする党、新党大地推薦
池田真紀(無)123,517票 47.62% 民進党、日本共産党、社会民主党、生活の党と山本太郎となかまたち推薦
『何も起こらず、何も影響しなかった』と現したのは、単に自公系の和田氏が勝ったからではありません。重要なのは得票の中身です。
以下は前回と今回の地域別得票結果です。
第47回衆議院議員補欠選挙
和田(自民) | 池田(無所属) | |||
札幌市厚別区 | 29,292 | 47% | 33,434 | 53% |
江別市 | 28,661 | 49% | 29,687 | 51% |
千歳市 | 25,591 | 64% | 14,439 | 36% |
恵庭市 | 19,447 | 60% | 13,062 | 40% |
北広島市 | 13,419 | 47% | 15,200 | 53% |
石狩市 | 13,103 | 50% | 13,133 | 50% |
石狩振興局 | 6,329 | 58% | 4,562 | 42% |
合計 | 135,842 | 52% | 123,517 | 48% |
第47回衆議院議員総選挙
町村(自民) | 勝部(民主) | 鈴木(共産) | 勝部+鈴木 | |||
札幌市厚別区 | 28,167 | 45% | 24,669 | 9,325 | 33,994 | 55% |
江別市 | 26,084 | 46% | 24,065 | 6,969 | 31,034 | 54% |
千歳市 | 27,336 | 65% | 11,467 | 3,351 | 14,818 | 35% |
恵庭市 | 19,489 | 60% | 9,883 | 3,080 | 12,963 | 40% |
北広島市 | 12,876 | 45% | 11,734 | 3,839 | 15,573 | 55% |
石狩市 | 12,000 | 47% | 9,841 | 3,600 | 13,441 | 53% |
石狩振興局 | 5,442 | 54% | 3,316 | 1,359 | 4,675 | 46% |
合計 | 131,394 | 51% | 94,975 | 31,523 | 126,498 | 49% |
2つの表を見比べるとわかりますが、得票傾向がかなり似通っています。
もともと町村氏は千歳市と恵庭市を主戦場としており、その他の地域では過半数を獲得できていない候補者でした。つまり千歳市と恵庭市で稼げなければ落選するということです。
禅譲の和田氏ががそれをそのまま受け継いだことがわかります。今回の補選も千歳市と恵庭市で稼いだ得票差で勝っていることがわかります。
町村氏の経歴の長さと歴史を考えれば、千歳市と恵庭市の票を覆すのは容易でないでしょう。では池田氏がとるべき選挙戦略はどのようなものでしょうか?
選挙というのは一人一票というルールがあり、マーケティング的にはきわめて特殊なものです。その特性から導き出される答えはとてもシンプルで、「どのようなものであろうと一票は一票。より取り込みやすい一票を取りに行く」というものです。
池田氏の場合、千歳市と恵庭市で勝負に挑むのではなく、札幌市厚別区や江別市で反自公票を取りに行くことが勝つための近道であり重視すべき戦略です。どの地域であっても一票の価値は変わりません。だからこそ取りやすいところを効率よく狙うべきなのです。
しかし結果をみると、池田氏は札幌市厚別区と江別市で票を伸ばせていない(むしろやや減らしぎみ)であることがわかります。池田氏の敗因はここにあると私は考えます。
さて、『何も起こらず、何も影響しなかった』という点について。
今回の補選は様々な要素を含んだ選挙であり、私自身とても注目してた選挙だと先にも書きました。端的にいえば「それらの要素によって投票行動がどう変わるのか」ということが注目なのです。
しかし結果をみる限り、投票率も、投票傾向も、そして結果も全て同じです。何も変わっていません。(少なくとも私にはそのように思えます)
2014年と2016年。この2回の選挙で北海道5区の有権者の投票行動が変わらなかったということは、ある意味とても衝撃的なことです。
私自身はこの結果をしばらく消化できそうにありませんが、夏の参院選(もしかしたら衆院同時選)を予測するうえでこの結果を無視することはできないでしょう。
この「何も起こらず、何も影響しなかった」北海道5区の補選結果を。
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